iTHEMS (数理研究プログラム)について

iTHEMSとは、数理科学を通した分野横断研究を世界規模で実現するための取り組みです。基本的に、博士課程を修了した若手研究員が中心となり、分野の垣根を越えてさまざまな研究をしています。
今回の訪問では、実際に研究員の皆さんが使用している研究スペースの見学や、実際にiTHEMSに所属している研究者の方のお話を伺うなどしました。研究スペースでは、さまざまなところに数式が記されており、研究のための議論の跡が感じ取れました。また、所属研究者の森脇さんのお話からは、分野を越えて興味を広げていった経緯について学ぶことができました。
私は物理学をメインに学んでいこうと思っていますが、そのほかの分野と協力することで、さらに面白い研究をすることができることがわかりました。他分野の知識の学び方など、新たに知れたことも多く、とても有意義な時間を過ごせました。

(文責:岡田悠・理学部B2)

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風間研報告

風間研では、スライドを用いた説明の後、実験室を見学させていただきました。脳が感覚器官から得た情報からどのように知覚を生み出すかを理解することを目標としており、その中でも嗅覚に焦点を当てた研究について紹介していただきました。どのようににおいの情報が処理され、そのにおいを愉快、あるいは不快と感じるのかを、ヒトと神経回路が近いショウジョウバエを用いた実験により解明を試みています。実験室見学では、実際に研究に用いている装置について説明していただきました。ハエがにおいに対して近づくか、あるいは遠ざかるかという動きを検知することでハエが与えられたにおいを愉快・不快のどちらと感じるかをデータ化する装置や、神経細胞に光感受性タンパク質を発現させたハエを用いて、においを与えたときにどの神経細胞が応答するかを調べる装置などを間近で見ることができました。これらの装置はとても精巧に見えましたが、手作りの部分もあるというお話を聞き、実験技術の高さを感じました。私はタンパク質の理論研究を行っており、光遺伝学の実験現場を見る機会がなかったため、実験室見学は貴重な経験でした。
実験で得られたデータを解析し、その結果からにおいに対する神経回路の数理モデルを構築します。興味深いことに、不快なにおいを知覚する神経回路と愉快なにおいを知覚する神経回路は、同じ数理モデルを用いて再現することができないというお話をうかがいました。
実験だけでなく理論研究も行うということで、生物学を専門とされているメンバーばかりではなく、物理学などほかの分野をバックグラウンドに持つ方も所属されているということでした。複雑な神経回路の解明には多角的なアプローチが必要であり、現在も解明されていないことが多い脳神経科学の奥深さを実感しました。

(文責:岸田侑樹・化学専攻M2)

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玉川高エネルギー宇宙物理研究室

2日目、理研の食堂で昼食を食べた後、玉川高エネルギー宇宙物理研究室へ訪問させていただきました。私が宇宙からのX 線、γ線などを観測・解析する高エネルギー宇宙物理という分野に興味があり、希望を叶えていただきました。
X 線は大気により吸収されてしまうため地球上では観測できません。したがって大気圏外まで観測機を飛ばし観測する必要があります。玉川研究室ではX ・γ線の観測機を開発し、それを実際に大気圏外に打ち上げ、解析まで行っているとのことでした。今回、玉川研究室が運用する観測機をいくつか紹介していただきました。まずMAXI というX 線偏光観測機です。
こちらは国際宇宙ステーション(ISS) に取り付けられています。X線観測は1950~60年代から注目され始めたのですが偏光観測を試みたのはMAXI が初めてだそうです。私自身も分光観測はよく耳にしますが偏光観測というのはここで初めて聴き興味をひかれました。偏光観測でわかることは様々ありますが、その中の一つとして、分子雲からの偏光を観測することで天の川銀河の活動の歴史を知ることができます。実際MAXI が集めたデータから天の川銀河中心付近の恒星がいつごろまで活発に活動していたかがわかったとのことです。X線偏光観測という未開拓の分野に手を出し結果を出したということに、パイオニア精神を感じ心動かされました。
また、玉川研究室に配属されている博士課程の学生の方から、つい最近2023年に打ち上げられたNinjaSat という超小型の観測衛星についても説明していただきました。NinjaSatに搭載されたX 線観測機は玉川研究室の学生が設計から運用・観測まで携わっています。またNinjaSat は従来の観測機より非常に小型かつ低予算でつくられており全く新しい取り組みということでした。宇宙に打ち上げる観測機をつくるには、耐振動性やガス漏れ防止(X線観測のためにガスを使っている) など乗り越えなければならない課題がたくさんあります。それを学生自ら試行錯誤し作り上げたそうです。NinjaSat の観測運用も学生たちで行われており、実際運用しているパソコン画面を見せていただきました。観測に必要なすべての環境を自作で作り出していく様子に感銘をうけました。
今回玉川高エネルギー宇宙物理研究室を見学させて頂いて、普通では滅多に見れない実際の観測機を見ることができ、大変楽しかったです。こちらの質問にもたくさん答えていただき、高エネルギー宇宙物理の最先端の様子を具体的に知ることができました。貴重な経験をありがとうございました。

(文責: 石井野乃花・物理学・宇宙物理学専攻B3)

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脳神経科学研究センター脳型知能理論研究ユニット

最後に私たちが訪れた研究室は、 脳神経科学研究センターの脳型知能理論研究ユニットです。 理論の研究者らしい洗練された研究室で、 人々が活発に議論しやすい空気感がありました。 別室に超高性能の巨大コンピュータがあり、 カッコよかったです。
この研究ユニットでは、 昨今話題になっているLLM(大規模言語モデル)とは異なったアプローチの人工知能について研究しており、 とても興味深い話をたくさんしていただきました。 特に印象に残ったのは、 生物の脳と既存の人工知能の違いを情報理論や統計学の観点から説明するという話です。 他にも、 既存の人工知能の限界(学習データの枯渇、 莫大な消費電力など)の話も面白かったです。
話をしていただいたユニットリーダーの磯村先生が自信に満ちたユーモアのある方で、 さまざまの将来の展望を話してくださり、 これからの未来が楽しみになりました。

(山敷大亮・物理学・宇宙物理学専攻B3)

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スピントロニクス理論研究室訪問のレポート

私の希望で旅の2日目の午前は、多々良源さんが率いるスピントロニクス理論研究室に訪れることになりました。理論研究室のため見世物は限定的ですが、訪問の際に使われた機材はホワイトボードとマーカーだけでした。このやり手は私にとって如何にも理論物理学者らしくて、日常的です。その普通さで折角の訪問が退屈だったのかと聞かれると、否、そんなことは全くありませんでした。
多々良さんによる研究室紹介は私の質問から始まりました。ポスドクを探している博士2回生の私にはたくさんの質問を準備してきました。一番目に私が質問したのは、熱勾配は重力なのか、電磁気力なのか、という昔ながらの問題に関連した話でした。これを機に、訪問に参加するみんなのためにも、多々良さんは物性研究の在り方まで振り返りました。
物性は、熱伝導問題のように、日常に溢れた様々な問題に取り組む学問です。そのため、「物性は地味だ」と彼はきっぱり発言し、私たちから笑いを呼び寄せました。その後、そんな地味な物性の良さを彼は熱く語りました。私が掴めた限りでは次の3 点となります。一つ目は、素粒子分野に共通する場の量子論の様々な道具を物性の問題に適用することができ、なおかつそのような論法が通じる問題は物性の分野にはまだ残っているといわれまし た。二つ目は、身の回りの物は案外とわからないという面白さがあるところです。多々良さんは例としてネオジム磁石の話を挙げました。なぜそれが巨大な磁化を発生させるのか、その微視的な記述はまだできていないようです。そして、最後は、自然界に在る物ばかりに絞らなくても、人工的な系を作って、その物理を究明することもできるところです。この話題に関して多々良さんは巨大磁気抵抗効果を例に挙げました。
 上記の話のほか、スピントロニクス分野自体の展望についてもいろいろと議論しました。このとき、多々良さんだけでなく、スピントロニクス理論研究室に特別研究員として勤める山口皓史さんからもたくさんの議論ができました。
 このように、ホワイトボードとマーカーだけでも素敵な訪問ができました。「物性が地味だ」という話は、研究室の選びに戸惑う、まだ学部生である参加者の一部にとっては非常によい参考になるのではないかと思います。私としてもその話題に出てきた例に関して様々なことが勉強になりました。スピントロニクスの展望については、正直、時間が足りませんでした。思ったよりも議論が活発化し、一個一個の話題が拡がられました。それでも、この研究室の雰囲気に触れられた上に、異なる分野の人と研究に関する意見の交換もできて、本当によかったと思います。

(文責・ヌンチョット・ナラティプ・物理学・宇宙物理学専攻D2)

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